驚きのコラムを見かけたので、紹介しておこう。
コラム:「不動産バブル」乗り越えた中国、傷浅く 地政学的混乱も好機に
2026年4月17日午後 3:48 GMT+92026年4月19日更新
中国がついに大きな転換点を越えた。政府が膨張した不動産セクターの規制に乗り出してから5年、経済は質の高い成長を軸とする、より持続可能な軌道に乗っている。そして調整が残した傷跡は、多くの人々が懸念していたよりもはるかに少なかった。
ロイターより
「……という、夢を見たのじゃった。」というナレーションが聞こえてきそうな、夢見がちのコラムである。
ツッコミが追いつかないかもしれないけれど、おもしろポイントを指摘していきたい。
支那の技術は絶好調!
筆者の個人的見解
先ずは、最初に、ロイターのお決まりフレーズを紹介しておこう。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
ロイターより
実は、このコラムでは一番ここが大事だと思う。
そりゃあ、言論の自由があるんだから、恥ずかしげもなくこういうコラムを紹介するのはありだとは思う。そして、この筆者、「Stephan Jen」なる人物だが、ユーリゾンSLJキャピタルのCEO兼CIOらしい。要は支那の関連投資商品を機関投資家向けに販売している会社のトップというわけだ。
まあ何というか、こんな記事を過去に書いている人物でもある。
「ドルの投資妙味薄れる」英運用ユーリゾンSLJのCEO
2025年3月18日 10:48
外国為替市場ではドルに下落圧力がかかり続けている。英資産運用会社ユーリゾンSLJキャピタルで最高経営責任者(CEO)兼最高投資責任者(CIO)を務めるスティーブン・ジェン氏は「ドルの過大評価が修正される局面に入り、円相場は今後1年間で1ドル=130円まで上昇余地がある」と指摘する。
日本経済新聞より
去年の記事だが、1年間で、1ドル=130円まで上昇?はて、そんな時期があっただろうか??
ともあれ、優秀な方だとは思うけれども、ポジショントークである可能性を考えながら読むべき記事だと言うことは先ず指摘しておきたい。
不動産価格の調整
で、先ずは、支那の不動産の話から。
中国の不動産価格は2021年以降、平均40―50%も下落しており、弱気相場の中にある。ただこれは、ある程度意図されたものだ。政府は20年、不動産セクターのレバレッジを制限する「三条紅線(3本のレッドライン)」政策により、バブル解消を試みた。
今後1年間は建設業と関連事業の低迷が経済成長の足かせとなり続ける可能性があるが、不動産価格の調整は底を打ちつつあるようだ。上海の中古物件市場では価格が上昇し始めており、3月の住宅価格の下落ペースも再び緩和した。価格の下落が最も深刻だったのは24年後半だった。
~~略~~
中国は日本よりさらに脆弱な状態で不動産バブル危機に突入した――少なくとも2021、22年ごろの通説ではそう考えられていた――ため、経済や金融システムの他の部分にも連鎖的な破綻を引き起こすと懸念された。
しかし、実際にはそうはならなかった。
ロイター「「不動産バブル」乗り越えた中国~」より
「実際にそうはならなかった」か。
確かにそうなってはいないけれど、別に支那の不動産価格の下落に歯止めがかかったわけではないんだよね。

これは住宅価格の価格傾向だが、確かにここ最近は少し下落傾向にブレーキがかかっているようにも見える。
中国の新築住宅価格が10ヶ月で最も下落
2026-04-16 10:51
2026年3月、中国の70都市における新築住宅価格は前年同月比で3.4%下落し、前月の3.2%の減少から拡大しました。この最新の数値は、33ヶ月連続の縮小を示しており、2025年5月以来の最も急激な下落を記録しました。これは、不動産セクターの持続的な弱さを浮き彫りにしています。このデータは、政策立案者が住宅市場を安定させるために苦労していることを強調しており、彼らは依然として回復をもたらしていない段階的かつターゲットを絞った支援策に依存しています。主要都市の中では、北京(-2.1% 対 -2.3% 2月)、広州(-4.7% 対 -5.1%)、深セン(-5.5% 対 -5.5%)、重慶(-4.4% 対 -3.8%)、および天津(-4.8% 対 -4.2%)で価格の下落が続いています。一方、上海では価格がより緩やかなペースで上昇しました(3.7% 対 4.2%)。月次では、新築住宅価格は0.2%下落し、2月の0.3%の減少の後に続きました。
TRADING ECONOMICSより
「24年度後半に一番下落した」という評価も間違いではないが、下落が持続的に続いているのも事実なんだよね。
ロイターの別の分析でも、評価は分かれている。
そもそも、公式で発表する失業率も高止まりしているのに、住宅の価格が上がるとは。まあ、多少は改善したり、また悪くなったり波はあるんだろうけど、基本的に回復しないよ。何故なら、支那の住宅需要というのは、最大の出資者が地方政府だったから。
ところが、地方政府がもはや借金で首が回らないのである。不良債権をなんとかしないことには、不動産市場はずっとこのままだと思うけど。
それに、指標の構成要素(新築・中古、取引量、政策介入)を分解せずに分析しているんだけど、価格だけで底打ちを論じるのは、分析として不十分ではないかな。
まとめると、政策に狙いがあったこと自体は事実だが、ここで分析すべきは「その狙いが達成されたか」を評価することである。そういう意味では、「思った勢いでは沈まなかった」という部分は現実と合っている。これとて、今、まだ沈み切っていないだけの可能性は十分にあるのだけれど。
成長のシグナル
で、それどころか、成長するらしい。
さらに重要なのは、政府がこの苦境を好機とし、成長の「最大化」から成長の「質向上」へと舵を切ったことだ。
新型コロナ禍前の10年間、中国の実質GDP成長率は平均約7%、名目成長率は平均10―11%だった。それ以降、成長率は2―3ポイント減速している。
この減速は一見不安を誘うが、実際には、より持続可能な成長モデルへの移行を示す前向きなシグナルだ。
ロイター「「不動産バブル」乗り越えた中国~」より
この辺りは、習近平氏の演説の通りか。
一帯一路10年、軌道修正 中国・習氏演説「量から質へ」
2023年10月19日 2:00
中国の習近平国家主席は18日、広域経済圏構想「一帯一路」をめぐり、質の高い投資を推進する方針を示した。かつて規模を優先し焦げ付きが急増したことなどを背景に、路線を修正した格好だ。習氏が重視する経済安全保障も判断の軸に据え、投資効率を高める戦略とみられる。
日本経済新聞より
この内容もなかなか陳腐なものではあったが、その戦略の中身はというと、IA、ハイテク、代替エネルギーだ。
中国のGDPはもはや住宅ブームによって水増しされず、長期的発展を支えそうな活動によって支えられている。人工知能(AI)、ハイテク製造業、代替エネルギー分野での主導権確保を目指す取り組みなどだ。
ロイター「「不動産バブル」乗り越えた中国~」より
ここで「もはや住宅ブームによって水増しされず」と、本音をチラリしているところがちょっと面白いが、不動産開発はダメだから先進技術に、というのはまさに習近平思想というか、支那製造2025路線に沿ったものでもある。
その分野の1つAIなのだが……、ディープシーク君は何処に行っちゃったんでしょうね。
AIの現実
生成AIの話は、日本国内でもエンタメ業界中心に問題視される向きがある。
これは「知的財産」という分野においても、非常に由々しき問題ではあるのだが、しかし一方で、「ツールの延長線上にある」と言うことを理解しておかねばならない。凄いことが出来るのは事実だが、データありきなのである。
中国ディープシークがオープンAIからデータ不正入手か…米海軍「いかなる場合でも使用不可」
2025/01/29 18:07
中国の新興AI(人工知能)開発企業「ディープシーク」を巡り、米ブルームバーグ通信は28日、ディープシークの関係者が、対話型AIサービス「チャットGPT」を開発した米オープンAIからデータを不正に入手した可能性があると報じた。オープンAIと、提携する米マイクロソフトが調査に着手したとしている。
讀賣新聞より
去年の1月にはこの様な報道が出ていたが、この記事では「利用禁止」或いは「利用上の注意」を喚起している。その一方で、ディープシーク自身が他のAIモデルを「蒸留したのではないか」という疑惑に触れている。この記事ではオープンAI社からのデータを不正に入手としているが。
DeepSeekに浮上した「蒸留」疑惑、その技術的な仕組みと歴史を解説
2025.02.03
中国DeepSeek(深度求索)が、米OpenAI(オープンAI)のAI(人工知能)モデルを「蒸留」して自社のAIモデルを鍛えているとの証拠がある――。英紙Financial Timesは2025年1月29日(英国時間)、オープンAIの談話としてこのように報じた。蒸留とはどのような技術か、詳しく解説しよう。
日経XTechより
先行技術ありきの蒸留なので、実際のところは例えばChatGPTなど先行モデルを超える性能を出せる訳ではないという意味でもある。
EVやロボット産業
このAI蒸留の話にも似た話なんだけれど、支那の技術は1から作り上げると言うよりは、より安価に必要な機能をというシロモノが多い。その上で見た目は豪華に仕上げるというのが、彼らのやり方である。
実際に、去年の夏頃からEV需要は一服してしまい、需要の伸びは鈍化している。それは、支那国内でも同様の傾向にある。
その辺りの話は、このブログでは何度も言及しているね。
薄利多売が悪いことだとは言わないけれど、利益が出ない構造になりつつあるのは問題である。BYDは技術革新を急いでいるけれども、現実はなかなかに厳しい。
では、ロボットはどうか?というと、技術の発展は目覚ましい。

驚異的ではあるのだけれど、走るだけのロボットを作るくらいなら、アーム型の工業用ロボットの精度を高めた方が建設的である。何というか、支那のロボット産業はおもちゃを作る方向に向いているようにしか見えないんだ。
もちろん、凄いことはスゴイと思う。でも、それが産業の発展に寄与するかというと、現段階では違うといわざるを得ない。
利益は出ているのか
だが、「質への転換」が実現したとするならば、不動産に依存しない分野だけで安定的な利益が生まれていることを示す必要があるが、その検証は行われていない。
それに関連して、これらの技術の発展によって「利ざや」を得ていると書かれているのだが、それはどうかなぁ。
しかし輸出市場は中国メーカーに大きな利ざやをもたらし続けている。
例えば、中信証券(CITIC)によれば、EV大手の比亜迪(BYD) は、中国国内での利益は1台当たり平均440ドルだが、海外市場では3000ドルに跳ね上がる。
米国との貿易摩擦も痛手だが、中国は他の地域、特にアジア、欧州、新興市場への輸出を大幅に増やしている。
ロイター「「不動産バブル」乗り越えた中国~」より
えぇ、BYDは確かに利益は出していたけど、減益していたような。
中国BYDの25年決算、4年ぶり減益 国内で競争激化
2026年3月28日午後 12:03 GMT+92026年3月28日更新
中国の電気自動車(EV)メーカー、比亜迪(BYD)が27日発表した2025年12月期決算は、純利益が前年比19%減の326億元(約7500億円)だった。減益は4年ぶり。減益幅はLSEGがまとめたアナリストの予想平均12.1%減よりも大きかった。
BYDは手ごろな価格のEVで伸長してきたが、零跑汽車(リープモーター)や吉利汽車など競合他社が技術的優位性を縮め、市場シェアを奪いつつある。
ロイターより
これ、何が起きているかというと、EV補助金が打ち切られたために、今までのやり方では利益が出にくくなっているという話でもある。なお、市場シェアを奪いつつある新興企業は、利益度外視の最新機能搭載での市場投入を行っているので、BYDはその分野で勝てないということのようだ。
つまり、BYDと新興EV企業の間に、購買意欲を覆すほどの技術的有意差はないという意味でもある。
まとめ
色々細かい点で突っ込みを入れたが、最後に「大きな転換点を越えた」という最初に書かれた結論について、以上の観点から「そうは思えない」と突っ込みを入れておこう。
相変わらず、支那経済は悪化の道を辿っていて、余り好材料のない状態が続いている。
事実の羅列に見えるが、実際には
- 政策意図を成果と取り違え
- 指標の前提条件を無視し
- スローガンを結論に転用している
という点で、分析としての体裁を満たしていない。「お気持ちコラム」は結構だけど、ここまで響かないのも珍しい。
あれもこれも状況分析の正しさに疑問があるので、至る結論にも……、というよりは、分析に使っている材料が全て間違っているうえ、結論ありきのコラムだったのだろうという風に思った。信じたいのは分かるけれど、現実はそうじゃないよ。少なくとも、今、経済的に大きなトピックスであるイラン戦争による影響を一切考慮しないのは、不味いんじゃないかなと思うよ。



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