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ドイツの支那スパイ事件と日本が「スパイ天国」と呼ばれる理由

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安全保障
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リアル版『スパイファミリー』である。もっとも、こちらは家族愛ではなく、中国向け技術収集疑惑の話なので、ほのぼのとした笑いは期待できないが。

ドイツ、中国のスパイ容疑で夫婦を逮捕 「多数の科学者と接触」

2026年5月20日 20:08

ドイツ警察は20日、中国のためにスパイ活動を行ったとして、南部ミュンヘンで夫婦を逮捕した。夫婦は軍事用途の先端技術に関する情報を求めていたとみられる。

AFPより

ドイツでは、外国政府のための諜報活動や国家機密漏洩を刑法上の重罪として扱っている。今回のAFP報道も、その法体系の延長線上にある事件である。

問題は、日本ではコレの取り締まりを行う法的根拠がない点だ。これが頭の痛いところなのである。

何がスパイ行為なのか

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今回の逮捕劇は産業・技術スパイ活動に関する

先ずは、ドイツで何が起きたかなのだが。

連邦検察庁は「シュエジュン・C」と「ホア・S」と名前の一部のみ公表されたドイツ国籍の夫婦について、「中国の情報機関のために働いていた」と指摘した。

夫婦は「ドイツの大学や研究機関で、多くの科学者、特に航空宇宙工学、コンピュータサイエンス、人工知能(AI)の分野の専門家と接触を持っていた」とされ、現在、ミュンヘンの自宅と職場での捜索が行われている。

また科学者らとの接触を目的に、夫婦は「通訳者や自動車メーカーの従業員を装っていた」とみられている。

AFP「ドイツ、中国のスパイ容疑で~」より

広く、ドイツの技術について情報収集していたものと考えられる。

ドイツでは「スパイ防止法」そのものは定義されていないが、刑法の「国家の安全を脅かす罪(第94条〜第100a条)」の中でスパイ活動を細かく定義し、重い罰則を科している。

特に重要なのは、国家機密を外国勢力へ漏洩する「第94条:国家反逆罪」や、情報機関の指示で活動する「第99条:諜報員活動罪」で、これらは、重大な場合は終身または長期の自由刑が科される重罪である。

更に、軍事転用可能な技術や物資の流出に関しては、刑法に加えて「外国貿易決済法(AWG)」が適用され、許可なき技術輸出は厳しい刑事罰の対象となる。

一応、日本にも産業スパイを取り締まる法律として、営業秘密保護や安全保障関連法制が整備されている。だが、今回のケースのように「公開情報」「研究交流」「講演」「専門家接触」の形を取られると、現行法ではそうとう厳しい。

日本では適用外

何故ならば、今回のケースで言うと以下のような問題があるからだ。

  1. 「公開されている先端研究」は守れない
  • ドイツの場合: 産業・技術スパイ活動そのものや、外国の情報機関のために動く「諜報員活動」自体を刑法第99条等で処罰可能。
  • 日本の場合: 日本にはスパイ行為そのものを直接取り締まる独立した「スパイ防止法」がない。技術流出の取り締まりは主に「不正競争防止法(営業秘密の侵害)」に頼っているが、その情報が厳重に管理された「営業秘密(非公開情報)」である必要があり、対象外となる。
  1. 「防衛秘密」でなければ動けない
  • 日本には「特定秘密保護法」があり、国の安全保障に関わる重大な秘密を漏洩した場合は厳罰に処される。しかし、これはあくまで「国が指定した防衛・外交などの秘密」に限られる。
  1. 「経済安全保障推進法」でも防げない穴
  • 近年、日本でも「経済安全保障推進法」や「重要経済安保情報保護・活用法」が整備され、先端技術(特定重要技術)の保護が進められている。しかし、これも「政府から資金や支援を受けている特定の研究プロジェクト」や「国が指定した重要情報」を漏洩した場合に罰則が適用される仕組みなので、対象外となる。

日本がスパイ天国と言われる所以である。技術立国を標榜していながら、技術情報の漏洩には全く無頓着なのは、どうかと思うんだが。

日本の病理

この話は、実にいやらしい問題を孕んでいて、結局のところは「憲法問題」に行き着いてしまう。

検察によると、一部の科学者は「一般市民を対象とした有料講義を行う」という名目で中国へ渡航するよう誘い出されたが、実際には現地で国営の兵器メーカーの従業員たちに向けて講義を行う結果になったという。

AFP「ドイツ、中国のスパイ容疑で~」より

ドイツのこのケースでは、一般公開されている重要技術についての講演を求められたため、日本であれば取り締まりの対象にすらならない。

これは、表現の自由や学問の自由とも絡む、実に厄介な問題である。だが、本当に問題なのは、憲法13条の扱い方にあるのだと思う。

憲法13条は、幸福追求権が規定されていて、サヨク大好きな条文である。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

e-GoVより

しかし、この条文には「公共の福祉」という重要な概念が置かれている。

本来であれば、国家の安全保障、国民の生命・自由の保護、外国政府による潜行的な情報収集活動への対抗といった課題も、「公共の福祉」の一部として立法根拠になり得るはずである。

ところが、日本の憲法運用では、この部分が十分に発展してこなかった。寧ろ、憲法学者が積極的に「公共の福祉」の範囲を狭めていった。結果として、表現の自由、学問の自由、経済活動の自由との調整が必要なスパイ防止法制は、長年にわたり整備が進まない。

つまり問題は、13条がスパイ防止法を妨げていることではなく、13条が持ち得る安全保障法制の基礎付け機能が、十分に活用されていない点にある。

本来ならば、幸福追求権を実効的に保障するには、国家が国民の安全保障環境を維持する能力も必要になるという理屈は通るはずなのだ。

アメリカでの事例

では、日本で早急に「スパイ防止法」の制定が無理なら、何もできないのかというと、そうでもない。

ヒントになるのが、アメリカのFARA(外国代理人登録法)である。以前もこちらの記事で触れているね。

米国で支那工作員を摘発、日本では何故できないのか
アイリーン・ワン事件!米司法省、米カリフォルニア州の市長訴追 中国政府の代理人 次官補「憂慮すべき事態」2026/5/12 13:27米司法省は11日、米当局への届け出なく中国政府の指示を受けてプロパガンダ(政治宣伝)を発信したとして、米西…

そう、アメリカがやったようなFARA(外国代理人登録法)の導入だ。

アメリカではFARAだけでは不十分として、外国政府代理人届出義務違反(合衆国法典18篇951条)の汎用化も検討し始めているが、先ずは登録制度を導入しなければ始まらない。

本来であれば、ドイツのような「外国政府の指示による潜行的な活動(アプローチ)」そのものを取り締まる強力な法的武器(刑法規定)を設定できれば良いのだが、まだまだ先は長そうである。

まとめ

結論としては、「スパイ防止法を早く作って!」という話になるのだが、前述のように現実には簡単ではない。

公開技術、研究交流、講演活動、専門家接触――こうした領域を規制しようとすると、表現の自由、学問の自由、そして憲法上の権利保障との調整が避けて通れないからだ。

だからこそ、日本が進めている国家情報局の整備には一定の意味がある。少なくとも、「外国政府の指示による活動なのか」「単なる研究交流なのか」という背景情報の収集能力がなければ、そもそも問題の把握すらできないからだ。

もっとも、情報収集能力の整備だけでは足りない。一般公開技術を集め、専門家から解説を引き出すという活動は、現行法ではなお処罰との距離が遠い。

ドイツが摘発したのは、まさにそのグレーゾーンの前段階である。日本が今後問われるのは、国家情報局が集めた情報を、どのような法制度の下で活用できるようにするのか、という点なのだろう。

コメント

  1. 山童 より:

    日本の病理は深いなぁ……。
    速い話がアレですね。
    アカデミズムの世界だけでなく、与党、野党もズブズブに工作されてる。
    なので、「スパイ防止法を制定すると、自分たちに矛先を向けられる」と勘ぐるんですよ。
    それは左巻きの連中だけでなく、与党の中にも多数いる!
    私の20代の時にソ連崩壊で冷戦崩壊してますが、その後の左派は、コミンテルン消失とともに「世界革命の大義」を失うんですね。
    それで、環境、人権、虹色などにテーゼをすり替え、リベラルを評してきた。そもそも安倍さんの第一次政権あたりまでは、リベラルとは保守派の中道寄りを意味してました。左巻きのWordではなかった。
    んで、このリベラルのレイシストのレッテル貼りの武器として、ポリコレが始まった。
    白雪姫と七人の小人を、ポリコレに忠実に表現すると、
    「七人の垂直方向にチャレンジする人たち」というケッタイな表現なる。
    それを押し付けてきたのが、酷くなってきたのがクリントンあたりから。
    それグローバリストに都合良い武器なんですよね。
    内憂外患て言葉が、内憂と外患がセットであるように、常に内側に「敵のケツの穴を舐めて、鼻がクソで黄色い奴ら」がいる。
    それは一定数は仕方ないが、あまりに拡がりすぎた。
    昨日、日テレが沖縄の事故報道に弱腰なのは「ジブリの株40%を入手して、宮崎駿とジブリを護る為だろ?」
    とAIに聞いたら、「公的にそういう情報はない」と返答。なので「公的に表明する訳ねーだろ!」と返答したら、
    「そのモヤモヤは解るが…」と「証拠がない」と否定され、
    「お前が情報を隠してないと言えるのか?」と問うと、「私には感情が無いので特定の団体に型入れする事はない」と返答。
    「感情がなくても、お前のアルゴリズムが特定の団体に有利な回答しないという保証がどこにある?」と問う。
    すると、とんでもなく長い弁明を返してきましたよ。
    結局、AIはリベラル大好きグローバリストの企業に管理されていて、
    アルゴリズムの不透明性については、
    全く詭弁しか並べない。
    つまるところ、学問の自由だの、言論の自由だのは、それを並べて利益を得る者に都合良くてきている!
    話を戻すと、一見、合理性に観えるが、単なる辞書に過ぎないAIを、客観評価性の基準にしよう事態が、実は大きな網を仕掛けられてる気がする。
    アカデミズムの連中は、基本的に人類の25%以下の高知能の人たちで作られてますが、高知能が社会で高性能とは限らない事は、社会人やれは三年で気づく事です。
    むしろ凡庸な人間が潜在意識にセンサーとして持ってる「勘」の方が、現実的には有能。
    無能なコンサルって勘の悪い奴らじゃないですか。
    いい加減、反知性主義が米国で猛威を奮ってる理由をかんがえた方が良いですよ。でも左翼知識人は絶対にしない。彼らは「頭の良い好学歴の自分の思い通りにならない社会に不満」の人々で、絶対に「何故に社会は我々の思い通りにならないのか?」という根源的な問いを拒否してるから!!
    最近、毛沢東の文革には、それなりに意味もあったのかも知れない?
    とか想う次第であります。