コメントでクーデター警戒の話が出ていたので、丁度良いニュース記事をベースにしながら、何が起きているのか?について少し考えていきたい。
習近平氏、半年以上外遊ゼロで北京も離れない傾向…BMI推定値は改善傾向・健康状態は良好か
2026/05/26 07:40
中国の習近平国家主席(72)が今年に入り、北京を離れる機会が著しく減少している。外遊は半年以上なく、国内視察も近場か短時間に限られる。外国首脳を北京に迎える機会は多く、健康に問題はなさそうだが、専門家からは習氏が進めた軍幹部の大量粛清の影響を指摘する声もある。
読売新聞より
ニュースの要旨は、習近平氏の行動様式の変化と、その原因の推察ということになっている。竹のカーテンの向こう側の出来事なので、推論が多めのニュースではあるが、やむを得まい。
行動様式の変化と分析
半年以上も外遊が途絶える
直近の習近平氏の外遊は、昨年10~11月の韓国訪問。そして、それ以降に何があったのか?という話を軸にニュース記事が構成されている。
習国家主席がトランプ米大統領と釜山で30日会談、中国外務省発表
2025年10月29日
中国外務省は29日、習近平国家主席がトランプ米大統領と韓国の釜山で30日会談すると発表した。
ロイターより
2025年10月末から韓国・慶州で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、習近平氏は釜山でトランプ氏との会談も行っている。
また、11月1日には韓国大統領の李在明氏(ミョンミョン)との会談を行った。支那製スマートフォンを習近平氏側から受け取ったミョンミョンは、「通信の安全は大丈夫ですか」と、とんでもない発言をしたことでちょっと騒がれたが、外交としての成果は直接挨拶をした程度に留まる。
この件の謝罪をしたかどうかは不明だが、翌年1月5日には北京で習近平氏とミョンミョンで再び会談をしている。
中韓首脳、関係強化で一致 習主席は「抗日」歴史共有強調―北朝鮮問題で温度差も
2026年01月05日22時26分
中国の習近平国家主席と韓国の李在明大統領が5日、北京で会談し、両国の関係強化や経済協力の拡大で合意した。
時事通信より
この他にも、習近平氏は北京にて5月14日~15日にトランプ氏と、5月20日にはプーチン氏との会談を行った。フランス大統領のマクロン氏は去年末、カナダ首相のカーニー氏が1月14日~17日、イギリス首相のスターマー氏が1月28日~31日、セルビア、スペイン、ベトナム、UAE、ウルグアイ、フィンランド、アイルランドと、16ヵ国に及ぶ国家出席級の人物と会談を行った。
だが、去年のAPEC以降、外遊の動きはほぼ見当たらない。
「半年以上外遊ゼロで北京も離れない傾向」とは、そういう意味だ。
年4回ペース
記事では、過去の外遊に関して触れている。
中国外務省の発表によると、新型コロナ禍前の2019年、習氏は7回の外遊で計12か国を訪問した。「大国外交」を掲げて精力的に活動していた時期で、6月だけで4回外遊をこなし、日本や北朝鮮など5か国を回った。
読売新聞「習近平氏、半年以上外遊ゼロで~」より
例年のペースと比較して非常に少ないというのだ。

表に示すように、外遊が極端に減っている。良い、悪いは別にして、国家主席の立場で外遊をこなしていないというのは、やや不自然ではある。
評論家は、これを支那の「自信の高まり」「ホームコート外交の状態化」と評価する向きもあるようだが、不自然な話はこれだけではないのだ。
国内視察も近場へ
それが、こちら。
習氏の活動の変化は外遊だけではない。おおむね月1回が慣例の国内視察も、今年は北京(2月)と河北省(3月)と日帰り可能な近場に限る。4月末に上海を訪れたが、基礎研究強化に関する座談会以外の公式動静はなく、すぐに北京に戻ったとみられる。
読売新聞「習近平氏、半年以上外遊ゼロで~」より
国内の視察もかなり減っているようで、主に日帰り可能な近場への視察が多い模様。
この点、健康懸念などの噂も多少出はしたが、現時点で公式にはアナウンスされていないし、映像などで確認できる範囲で良好であるとの認識が一般的であるようだ。
興味深かったのは、感情の起伏について。
蔡氏はテレビ映像を基に習氏の感情の変化も分析している。15年と25年に北京で行われた「抗日戦争勝利」記念軍事パレードにおける習氏の表情をAI(人工知能)で分析したところ、「悲しみ」の占める割合は17・3%から48・6%に、「嫌悪」は5・8%から13・6%に大幅に増加したという。
読売新聞「習近平氏、半年以上外遊ゼロで~」より
台湾の研究者の分析によれば、不機嫌なことが多かったとのこと。仏頂面売りの人物ではあるが、以前と比べてネガティブな表情が多くなったという分析が何を意味するのかは、ちょっと興味深い。
朝貢の演出
ともあれ、世界各国の首脳が北京に挨拶にやって来る構図、という形だけを見ると、朝貢政治を演出しているという分析は可能である。
権威の高まりを示すためには、「相手から足を運んでくる」という、分かりやすい演出は有効だろう。
中国軍事パレード、ロ朝首脳が出席 習氏「人類は平和か戦争かの選択に直面」
2025年9月3日午後 3:38
中国は3日、北京中心部の天安門広場で抗日戦争勝利80年記念式典を行った。習近平国家主席は、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が出席した過去最大規模の軍事パレードの開幕に当たり、世界が平和か戦争かの選択を迫られていると警告した。
関税措置などでトランプ米政権と対立する中、中国の軍事力と外交力を誇示するために開かれた式典には、西側諸国から指導者はほとんど出席しなかった。
ロイターより
その演出を裏付ける情報として、去年9月の軍事パレードの規模の話がある。

主に東側のメンツを集めた抗日戦争勝利80年記念式典に絡めた軍事パレードは、大規模なもので、習近平氏の権威を見せつけた出来事といえる。
最新の国産兵器が多数披露され、その軍事力も内外にアピールしたという意味でも、大きなイベントであったと言える。
粛清と裏切り
加速する粛清
ただ、こういった軍事パレードの実施の裏側では、2025年度は苛烈な粛清の嵐が吹き荒れた。


この辺りでその苛烈さについては言及しているが、支那の軍部を支える人材を軒並み粛清してしまい、人材入れ替えを行った。
忠義なきモノは排除する、ということなのかもしれないが、それにしたって人民解放軍のトップ176ポストのうち、約52%が粛正または行方不明というのは、「苛烈」という表現で済ませて良いのかどうかもよくわからない。
更に4月には、テクノクラート出身の官僚を粛清してしまった。

「聖域なき改革」という習近平氏の強い意志を示すと評価する向きもあるが、実際のところはこのクラスのエリート育成には巨額の費用がかかる。それをあっさり見限るというのは、その必要があったのだろうが、強烈である。
地方視察減少の影響
「月1回の地方視察」という話の他にも、こんな話がある。

これは先日の短縮版の記事なのだが、ここ最近、比較的大きな事故があった。
指導者としてはこういった事故が発生した場合に、視察を組んで「人民に寄り添う姿(親民政治)」をアピールの場とするケースが多い。だが、何れもそういった動きはなさそうである。この手の緊急視察の場合には、特別予算が組まれがちであるが、そうした判断がないというのがちょっと象徴的である。
北京から「指示(重要指示)」を出すだけで済ませる状況は、北京から離れられないという実情を裏付ける証拠と言えるのかもしれない。
地方財政の逼迫
地方視察が減っている背景にはこんな話も関連している可能性がある。
中国は依然として国内債務のストレス管理に苦慮している
2025年9月17日
ブルームバーグは先日、北京が地方政府による民間企業への未払い金の清算を支援するため、国有銀行や政策銀行から1兆元を超える融資を動員する準備を進めていると報じた。表面的には、これは地方の債務圧力を緩和し、民間セクターの信頼を高めるための大胆かつ革新的な措置のように見える。しかし、その裏にはより厳しい現実が潜んでいる。中国の政策立案者たちは、依然として国内の根深い地方債務危機への対応に苦慮しているのだ。
The Diplomatより
こちらの関連の記事もこのブログではかなり言及してきたので今更だが、ザックリ説明すると、中央政府の財源に大きく寄与してきたのが不動産開発業。それが、方針転換に寄って沈没してしまった結果、地方政府の債務は山のように積み上がった。
この債務に関して、付け替えなどの手法でなんとか解消しようとしてはいるようだが、新たな財源となるものがそもそもないので、現状、支那の地方政府は非常に苦慮していて、公務員の給与の支払いが滞るような話もチラホラ聞かれる。
そんな状態で、習近平氏が地方視察を行った場合にはどうなるか?というと、「習近平氏の権威が高まる」なんて結果にはならないのである。大抵の場合は憎悪を掻き立てるような事になりかねない。そうすると、治安維持の観点からも宜しくない。
そもそも、地方視察を行う場合にはその地方に多大な費用負担が発生することになり、かつ、警備のための人的リソースも要することになる。結果、地方視察は減少するというのは、概ね納得できる構図ではある。
地方の資金繰りは改善するか
そのような構図になっていた場合、一先ずは流動性の逼迫を緩和する方向に促すために、債権発行などの対策に乗り出す必要があり、短期的にはこれの効果は出ると思われる。
政策立案者が隠れた債務の規模を過小評価しているかどうかは依然として不明である。いずれにせよ、北京の行動はリスクを軽減しようとする明確な意図を示している。
The Diplomat「中国は依然として~」より
ただ、債務の付替えは、事態の解決には繋がらない。根本的な解決を見なければならず、そのための対策としては、シンガポール方式が有望視されているようだ。
これはシンガポールの国営投資会社テマセクを指している。その狙いは、LGFVを政府支援の融資に頼るのではなく、投資を通じて十分な収益を生み出す商業主体へと変革することである。
The Diplomat「中国は依然として~」より
「テマセク化」構想と呼ばれる、テクノロジー企業からインフラに至るまで、グローバル市場への長期投資によって持続的に運営する方式で、LGFV(地方政府融資基金)への依存を断ち切ろうという発想らしい。
が、これが成功しても不良債権の解消には繋がらない。
権力構造の変化
粛清の影響と、地方財政の悪化に関して言及したが、その理由は遠距離視察のための警備負担の増加と、それを地方が負担しきれないという現状という形で関連付けることが可能である。
地方に頼れなければ、人民解放軍に警備の一部を負担させるという発想もできるのだが、ここにも粛清の影響があって十全に機能するとは言い難い。
要は、環境的に長距離地方視察が難しい実情が浮かび上がってくる。
習政権の新5カ年計画から読み解く中国経済の展望
2026年01月01日
異例の3期目入りとなった習近平政権も2027年の任期末まで折り返し地点を過ぎた。米国の保護主義に対しても一定のレジリエンスを発揮する中国の世界経済における存在感が高まる中、習政権4期目入りを巡る動向に世界の関心が集まるだろう。2026年3月開催予定の全国人民代表会議(全人代)では、改選期をまたぐ第15次5カ年計画(2026~30年)が確定する。今回のインサイト2では、第15次5カ年計画方針をもとに中国経済の将来像を展望し、日本経済に対する脅威と機会を提示する。
三菱総合研究所のレポートより
3期目に入った習近平氏が提示した新5カ年計画は、ザックリ説明すると投資を先端技術に集中して経済の質を高めようというものだ。

その実現性の是非はともかくとして、構造的に地方に利益を配ることが難しい方針であるといえる。
そうすると、地方政府は見捨てられたも同然という理解の仕方もできる。マクロで見て整合性が取れる方針であっても、地方政府にとっては死活問題なのだ。
地方視察の現象は、そういった中央との軋轢が影響していると言えるだろう。
まとめ
外遊停止と地方視察縮小は、単独で見れば「ホームコート外交」や「権威演出」と説明することもできる。これをクーデター警戒と表現するところまでは、現状ではやや言い過ぎだろう。
だが、
- 軍部粛清
- 地方財政悪化
- 中央地方関係の緊張
と重ね合わせると、別の構図も浮かび上がる。
それは、「習近平氏が北京を離れるコストが高くなっている」という可能性である。
もちろん、竹のカーテンの向こう側の話であり断定はできない。
しかし、半年以上の外遊停止と近距離中心の国内活動という異常値を前にすると、「単なる外交スタイル変更」で片付けるには少々説明不足にも見える。



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