こ、これは、カスピ海の怪物?!
水面を滑るように飛ぶ「シーグライダー」が初の有人飛行に成功。製品納入に向け前進
2026/09/04 17:32
航空機および船舶の研究開発のエキスパートが集まり、2020年に設立されたスタートアップ企業REGENT Craftが、水上飛行機、地面効果翼(WIG)、水中翼をひとつの機体に組み合わせ、水上を這うように飛行する「Seaglider」の試作機を用い、初の有人飛行に成功した。
Gadget Gate より
とまあ、かつては「ロマン兵器の類い」だった地面効果翼機だが、失敗を乗り越えて試作機が飛行に成功したとのこと。喜ばしい。
本日は、これがどういう航空機なのかについて、少し触れていきたい。最近は、政治・外交ネタに疲れたので、おつまみの提供をしようかなと。
電気の力で飛ぶ地面効果翼機
地面効果と水上機
先ずは冒頭の試作機なんだが、こんな格好をしている。

航空機とも、船舶とも言い難いフォルムだが、海上を飛行する航空機といえば良いのだろうか。或いは海上を飛ぶフェリーに近いものといったら良いだろうか。
この試作機「Viceroy」は12人乗りの海上専用機で、米ボストンに拠点を置く航空機スタートアップのRegent社が開発を行っている。
こういった機体がこれまでなかったのかといえば、冒頭に書いた「カスピ海の怪物」と呼ばれる機体が存在する。


ソ連の異物……遺物なのだが、なかなかのデカさだ。
効率の良い地面効果
地面効果(ground effect)というのは、翼形状を持つ物体が地面付近を移動する際、翼と地面の間の空気流の変化に影響を受ける現象である。イメージすると良いのは、水鳥が水面付近を滑空する様子。

グライダーなども似たような理屈で滑空しているようだが、あれは上昇気流を上手いこと使って飛ぶ技術だ。
地面効果翼機の場合、翼下面と地面(水面)の間に空気が閉じ込められることで揚力が増加し、同時に誘導抵抗が減少する。
言葉で説明すると難しいが、航空機が滑走路に進入するとき、特定の高さになると「ふわっ」と浮き上がる力を感じる場所があるのだが、これを飛ぶ時に利用するという風に伝えた方が分かりやすいかも知れない。
エクラノプランは何故失敗したのか
で、カスピ海の怪物「エクラノプラン」だが、軍用機として開発されて冷戦期に運用されたことが後に有名になった。
1966年に登場された大型エクラノブランKMは、全長92m、最大積載時の離床重量は540tという巨大な機体であった。この他色々なバージョンがあったようで、開発には力が入れられていた。
カスピ海は陸地に囲まれた湖なので、海水と淡水が混じり合った汽水域に近い状態にある。

世界最大の湖のその面積は、日本の領土面積とほぼ等しいが、近年は接続する河川が干上がる、或いは近隣諸国がダムを建設して発電に用いるなどした結果、塩分濃度の上昇や海面低下を招いていると言われている。
しかし、この大きな湖を高速に手軽に移動できる手段があれば、という気持ちは分かる。
実際、エクラノブランも大容量輸送の手段として期待されていたのである。
だが、離着水時に波が高いと運用が難しいと言う問題点があり、実際に1機墜落しているそうだ。
そして、多数のジェットエンジンを用いる巨大な機体であり、しかも地面効果を利用するために極低高度を飛行する必要があったことから、機動性や旋回性能には制約があった。
更に、特殊な形状であるが故に、運用には巨大桟橋を必要とすることと、メンテナンスのかなりお金がかかったらしく、結果的に資金的な問題で運用を諦めたというのが実態のようだ。
一言で言うと、経済性がなかったということだね。
Viceroyは問題解決出来ているのか
というわけで、冒頭のニュースを見たときは、「またまたぁ」と思ったわけだが。

しかし、調べてみると、エクラノプランの抱えた問題点は、ある程度解消しているようで。
1つは、水中翼の搭載によって、離陸時の安定性を高めたこと。高波に対応出来る程ではないのだけれど、1m程度の波であれば運用出来る能力があるらしい。
機体が持ちあがることによって波の抵抗が軽減され、さらに高速域に達すると安定性も向上する。そして地面効果、いわゆるグラウンドエフェクト(F1マシンのそれとは逆に作用する)の作用によって機体を水面から離陸させる。
離陸と言っても、この機体は水面と翼の間にクッション効果を生み出すグラウンドエフェクトが利用できるほんの数mしか浮上しない。しかしこれにより、通常の航空機よりも遙かに大きな積載量を実現できる。
Gadget Gate より
機体制御に関しては、電動プロペラを使って制御する方法なので、速度は然程出ない一方で、制御性は高いようだ。「然程出ない」と書いたが、設計上は300km/hが可能だと言われているので、一般的な船よりは早い。参考までに、エクラノブランは500km/hで海上3m位の高さを飛行する、ミサイルのような乗り物だったようだ。
高速船でも43ノット(80km/h)程度なので、安定的に飛べればメリットはある。
今回はテスト飛行で、高速飛行を目的とはしていなかったようだけど。
テスト機は設計上、300km程度だということになっているので、結構な距離をカバーできるね。例えば、九州の長崎から五島列島までの往復運行(90km×2)とかも視野に入ってくる。
桟橋の話は、形状が確定できていないので何とも言えないのだが、浮き桟橋を使って対応可能らしいので、ここも多分良かろうと思う。
まとめ
今のところはテスト機の飛行(30秒間の飛行)が成功した段階の、地面効果翼機「Viceroy」だが、オンスケなら2027年頃には初号機の納入ということになるはずである。
今のところは600m程度飛行している段階なので、これからまだ様々なテストが待ち構えている技術ではあるのだが……、まあ、理屈としては飛行可能であるという状態なのと、実機が実際に飛んだことには天と地ほどの違いがあるので、これから次第ではあるが期待できる技術と言って良いと思う。
実現できれば、大きなビジネスになるのかな。日本もフェリーの運航はかなり厳しいものがあるので、こういった技術で代替できるようになればスバラシイのだけれど。


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