別記事に、「対外投資に関する規定」関連のコメントいただいたので、少し触れておきたいと思う。
国務院、対外投資に関する規定を発表、7月1日から施行
2026年06月05日
中国国務院は5月5日、「国務院による対外投資に関する規定」(以下、規定)を公布した。規定は7月1日から施行される(中国政府網への掲載日は6月1日、注1)。同規定は「対外関係法」「対外貿易法」などの法律に基づいて制定された。同規定を制定した目的として、ハイレベルな対外開放の推進、対外投資の質の高い発展促進、対外投資管理の効果的実施、投資家およびその対外投資の合法的権益の保護、中国の国家主権、安全、発展の利益を守ることが挙げられた。
JETROより
このブログではこれまで積極的に触れていなかった「国務院による対外投資に関する規定」だが、コメントで教えていただいたように、なかなか興味深い内容を含んでいる。
大規模な影響
統制強化の流れ
内容を少し丁寧に見ていこう。
同規定は、(1)適用範囲の明確化、(2)全般的な要求事項の明確化、(3)総合的なサービスの拡充、(4)効果的な管理の実施、(5)対外投資の保護強化の5つを柱に、34条から構成されている。
JETRO「国務院、対外投資に関する~」より
本件は、支那共産党による支配を高めるという意味では、先日触れた「出国管理強化の規定」などと似た性質を持っていると言ってよいと思う。

統制の強化という大筋の方針は、同じである。
で、本件は何を強化しているかというと、
- 適用主体:支那国内の企業、その他の組織、および居住者個人(海外在住の支那公民や、支那国内に投資資産を持つ華人を含む)。
- 投資行為:資金や資産の投入、権益の取得、融資、担保提供など、幅広い手段で海外企業や資産の権益を取得する行為。
要するに、これまで必ずしも明確ではなかった海外への資金・資産の移動について、支那当局がより広い範囲で把握・管理できるようにしようというわけだ。
特に意識されているのが、先端技術やデータの海外流出だろう。
人工知能(AI)や先端製造業などのハイテク分野を意識した、厳しいデータ・技術移転規制が敷かれ、技術者の越境派遣、現地での技術指導、研修の手配といった「人員を介した技術移転」も厳しく規制されている。
このあたりは、先日取り上げた出国管理強化の方針とも、かなり似通っている。
海外に居住・滞在する個人にも影響
ここで興味深いのは、この法律は適用対象に「居住者個人」を明記したことで、海外に長期間住んでいても支那籍のままである人や、支那国内に経済的利益を持つ人が広く含まれる。
つまり、企業だけを対象とする規制ではない。
海外に長期間住んでいる支那公民であっても、一定の条件を満たせば対象となり得る。さらに、支那国内に経済的利益を持つ個人についても、海外との資金・資産の移動がこれまで以上に問題になり得る。
そう考えると、例えば支那国内の銀行口座や、Alipay(支付宝)・WeChat Pay(微信支付)などの国内決済手段を日本での商売に流用しているケースなども、今後は無関係ではいられなくなる可能性がある。
もちろん、個々の取引が直ちにこの規定に違反するという意味ではない。
問題なのは、これまでグレーな領域として放置されていた海外との資金移動について、支那当局が「対外投資」という枠組みから管理する余地が広がったことだ。
これは、海外で事業を行っている人間にとっては無視できない変化だろう。
在日の中国系観光ビジネス「一条龍」が苦境 日中対立のあおりで
2025年12月25日 5:00
中国政府による日本への渡航自粛要請を巡り、日本で中国人旅行客を対象として「一条龍(一匹の龍)」と呼ばれるビジネスを展開してきた同国系企業が苦境に立たされている。
中国政府は11月14日、自国民に対し日本への渡航自粛を呼びかけた。これは11月7日の高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁に報復する動きと見られており、中国はこの発言を内政干渉とみなしている。
日本経済新聞より
既に去年末には苦境がニュースでも報じられていたが、ここへ来て更に追い打ちをかける事態に。
「一条龍」のように、日本国内で支那側の金融サービスやネットワークを利用して商売を行う形態については、日本側から見れば日本国内で経済活動を行っているにもかかわらず、その決済や資金の流れが支那側に依存しているという問題がある。
今回の規定は、こうした海外での資金・資産の動きを支那側から管理するという意味でも、無視できないものだと思う。
海外株式購入、不動産購入にも影響が
また、その他の影響としてこんな話もある。
以前の制度では、海外投資を希望する中国企業は複数の政府機関から対外直接投資(ODI)の承認を得る必要があったが、この規則は個人には明示的に適用されなかった。
上海方昌情報発展の調査会社創設者である王志毅氏は、これにより個人の海外投資活動は「曖昧な状態」に置かれたと述べた。
彼はさらに、「厳密に言えば、中国にはこれまで、国内居住者個人による海外直接投資(ODI)のための体系的な制度的枠組みが欠けていた」と付け加えた。
~~略~~
一部のアナリストは、この規制は投資家を合法的な道へと導くことを目的としていると考えているが、シンガポール経営大学の法学教授であるヘンリー・ガオ氏は、個人投資家の資金流入を制限するために利用される可能性があると警告している。
「私の見解では、この新たな規制は、中国の投資家が外国株を購入する道を閉ざしてしまう可能性がある」と高教授は述べ、この規制は中国国外の金融市場で行われる投資に適用されると明記されていることを指摘した。
The Business Times 50より
ハッキリとは法律の効果は確認されていないものの、影響はかなりでていると見られている。
日本国内でもタワマンの買い控えや投げ売りの兆候が出ていて、これまで海外で不動産を買いあさっていた富裕層の動向は、今後は監視下に置かれることになるのだろう。
また、株取引などに関しても、影響が出るとされている。
海外株式市場にも波及
今回の対外投資規定(国務院令第837号)が「株式投資」に及ぼす影響は、「中国国内からの海外株買いの完全封鎖」と「企業の海外上場を通じた技術・データの流出防止」という2つの側面で深刻であるようだ。
中国、越境ネット証券取引に終止符 香港株に売り圧力観測も
2026年5月26日 17:09
香港株に売り圧力の観測が出ている。きっかけは前週末22日に中国当局が発表した本土からの直接の越境ネット取引の全面禁止措置だ。香港に拠点を置くネット証券などを通じて本来はできない海外株の売買が横行していた。連休明け26日のハンセン指数は一進一退が続いた。影響は軽微にとどまるのだろうか。
日本経済新聞より
実際、今回の規定に先立って、支那国内では越境取引を制限する動きが既に出ていた。
その意味では、7月1日に施行された今回の規定だけを取り上げて、「この法律によって海外株式市場に影響が出た」と単純に考えるのは適切ではない。
そう、別記事で説明した日経やKOSPIへの影響の一部でもあるのだ。
新規定の公布(2026年5月・6月)に先立ち、支那国内では空前の資本逃避が発生していた。この新規定は、ハイテク分野における「完了済みの取引であっても、支那政府が後から強制解約・処分できる」という、海外投資家にとって極めてハイリスクな権限を政府に与えたからである。
まとめ
支那当局としては、「対外投資に関する規定 」によって、AIや先端半導体などの重要技術やデータが流出することを恐れていたのだけれど、法律の網の目を「国家安全」や「居住者個人のすべての経済行為」にまで極限まで広げた結果、いままでグレーの領域で扱われてきた取り引きや商売がやりにくくなった。
この結果、不動産や金融取引まで幅広く影響が出るに至ったというわけ。
これもまたチャイナリスクの一態様というわけなんだけど、いよいよ支那との関連性を保つのは難しくなって来たというのが、正直な今の感想である。
「支那国内で商売をすること」だけがリスクなのではない。
支那と資金、技術、人材、決済などの面でつながっていること自体が、徐々にリスクになっていくからだ。


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