酷い論説もあったものである。
高市政権の経済政策はなぜ評判が悪いのか? 支持率急落を招いた“変節”…「高市トレード」が「高市ショック」に変わった背景
2026.08.10
高市政権の支持率が急落している。報道各社の世論調査で内閣支持率は軒並み下落し、10ポイント以上も減少した調査も。首相本人は「原因がわからない」と強がるが、人心の離反は明らかだ。
集英社オンラインより
経済のことを書きたいのか、単純に高市政権を批判したいのか、よく分からない。
週刊誌系の媒体の記事だから、この程度の論調なのかもしれない。だが、経済政策を論じるのであれば、もう少し経済そのものを見てほしいと思う。
特に気になるのが、「高市ショック」という言葉である。
経済政策の「失敗」?
骨太ショックとは一体何なのか
あまり論旨に深入りする積もりはないのだが、いくつか気になった点があったので、少し整理しておきたい。
まず、「骨太ショック」という言葉自体は、木内登英氏の論説でも使われている。
骨太ショックと骨太方針原案の修正:小手先の対応では金融市場の信頼を取り戻すことはできない
2026年07月21日
政府は7月21日に「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」を閣議決定する見通しだ。高市首相の政策姿勢を強く反映した今年の「骨太の方針」は、その原案が提示されると、円安・債券安など金融市場が大きく反応した。それは「骨太ショック」とも呼ばれ、例年になく注目を集める「骨太の方針」となっている。
野村総合研究所のサイトより
木内登英氏の論説でも使われている「骨太ショック」だが、言葉自体には悪意を感じる。
木内氏はエコノミストとしてそれなりの信用を得ている人物だとは思っているので、悪意はないと信じたいところ。
ただ、この円安トレンドや株価の状況を国内事情だけで分析してしまうのは如何なものだろうか。
なぜなら、現在の金融市場を取り巻く環境には、日本国内の政策以外にも非常に多くの要因が存在するからである。
隣国の金融市場で何が起きていたのか
このブログで熱心に追いかけていたのが韓国経済で、特に年明けからはKOSPIの状況を観察してた。


8月に入って少し落ち着きを取り戻した韓国株式市場だが、これはレバレッジ型ETFを禁止したことが大きいと見ている。
おそらくはKOSPIが5,500を目指して下がっていく可能性はあるので、まだ「落ち着いた」と評価するのは早計かもしれないが、一時期のような乱高下は生じにくくなっているようだ。

KOSPIは、政策的理由によって韓国政府が強力に引き上げようとしていたのだが、6月初旬に終わった選挙以降はそのモチベーションが失われたこともあって、急速に冷え込んでいる。
そして、そのKOSPIを加熱させた理由が、バリューアッププログラムと呼ばれる政策の実効性と、市場を加熱させたレバレッジ型ETFと呼ばれる高倍率の容認だった。
レバレッジ型ETFは、規制されることで商品の清算(デレバレッジの完了)が終わったと見られているけれど、バリューアッププログラムの影響は未だに残っていると見るべきかもしれない。
日経平均も引き摺られる
さておき、韓国市場での高倍率の商品の売買に巻き込まれたのが日経平均で、余剰資金がキオクシアなど一部商品の投機的な買いに発展し、それが強制清算に巻き込まれる形で暴落した。
このピークは韓国市場とも概ね連動した格好だ。

そして、こうした株式市場の値動きが金融市場にも波及したというのが、今回の円安騒動に影響していたのは間違い無かろう。
また、こういった市場への影響は少なからずホルムズ海峡の情勢が関与していることも、忘れてはならないだろう。
加えて、シリコンサイクルと呼ばれる半導体業界の波があって、そろそろピークアウトしたのではないかという見方が優勢になってきている。
これら経済の外部性について、木内氏のレポートには、そのことに一切触れていない。
「トラス・ショック」と同じなのか
木内氏は元日銀審議委員の自負がある為に、金融政策に関する一家言があるのかもしれない。が、冒頭の集英社オンラインの記事も、「骨太ショック」を「高市ショック」と言い換えて、批判を展開している。
これは、「トラスショック」に準えているのだろう。
ただ、リズ・トラス氏の引き起こしたと言われるトラスショックとは、現状の日本では起きにくいというのが一般的な見方である。
第82回 トラス・ショックと骨太ショック:相違点多いが市場はパターンを意識する
2026年7月29日
「『骨太ショック』として報じられているところがあるのは事実」――。 片山さつき財務相が7月10日の閣議後会見で、日本の長期金利が30年ぶりの水準に上昇していることについてこのように発言しました。
~~略~~
日本の「骨太ショック」は小康状態に入っているように見えますが、まだ予断を許しません。金融市場参加者が意識する過去の事例として「トラス・ショック」があります。「トラス・ショック」とは、2022年9月に、当時のリズ・トラス英首相が大型減税や光熱費高騰対応のための財政支出拡大方針を打ち出したことで英国ポンドが急落し、長期金利は急上昇(英国債は急落)したことを指します。
もちろん、今年7月の日本が「トラス・ショック」のような状況に陥っているわけではありません。
三井住友信託銀行のサイトより

未だ完全にはショックから立ち直ってはいないだろうという条件付きではあるが、この解説ではトラス・ショックのような株式市場も急落し、通貨・債券・株式の3つがそろって下落する「トリプル安」が、骨太ショックでは発生していないと見ている。
日英の財政収支と経常収支も大きく乖離しているので、同じことにはならないだろうという分析だ。
市場が過去の事例を連想すること自体は当然である。
しかし、似たような値動きがあったからといって、同じ原因があるとは限らない。
後手に回る理由
評判が悪いとされる高市政権の経済対策だが、これにも言っていることに説得力は薄い。
そもそも、首相は昨年10月に自民党総裁に選ばれた際の会見で、食料品の消費税率ゼロ化に関し「選択肢として放棄するものではないが、すぐに対応できることを優先したい」と慎重だった。
同12月23日の日経新聞インタビューでは「選択肢としては排除しないが、物価高対策としては即効性がないと判断をした」とも答えている。
集英社オンラインより
実際、個人的な見解とも合致するが、消費税減税を経済対策としてみるのは正しくないように思う。
ホルムズ海峡の情勢など、経済の外部要因に対応するためには、事態が発生してから手を打つ形、つまり後手に回ることが多い。韓国の株式市場の影響にしたって、外国の経済政策の影響を完全に押しとどめることはできないのだ。
そうすると、消費税減税は何かと言えば、あれは国民との約束、「公約」に従った政策であると解くべきで、経済政策とは相性が悪いのは百も承知で減税に踏み切るのである。
どちらかというと、本当にやりたかったのはこちらだろう。
次官候補の官僚に異例の人事、財務省発表 政権肝いり政策の実務者
2026年8月7日 18時03分
財務省は7日、一松旬・主計局次長が同日付で東京税関長に就く人事を正式に発表した。一松氏は、岸田文雄首相(当時)の秘書官などを歴任し、将来の次官候補と目される有力官僚で、東京税関長に転出するのは異例。「(高市)政権にあまり協力的でなかったから」(首相官邸幹部)とされている。
朝日新聞より
一面的には、財務省の官僚のうち、特に強い政権批判をしている連中への見せしめ的な人事といえるが、より現実的には、政権が経済政策を実行するための行政側の体制整備に着手している可能性がある。
弾力的な経済政策をやるうえで、常に足枷となってきたのが財務省で、その人事を刷新することで、政策の風通しを良くしたいという狙いは感じられる。
金利政策と舵取り
本質的に経済対策として行うべき政策と、税制改革とは分けて考えねばなるまい。時期が悪かったという側面は否定しないが、今の高市政権のやりたいことと経済政策とは少々相性が悪いのも事実だ。そこをどうバランスをとるかが腕の見せ所だろうと思う。
政治には「表と裏」があるのだろう。たしかに日銀は6月の金融政策決定会合で政策金利を1%に引き上げるとともに、国債買い入れの減額措置停止を決定した。首相は利上げに難色を示していたとされ、両者にはすきま風が吹く。
集英社オンラインより
政策金利は引き上げが望ましいと言われてはいるが、実際のところ日米の金利差を近づけたいという狙いと、開発投資をやる上で金利の引き上げを行うと、その経済効果の足を引っ張るという側面があることを見る必要があるので、この摺り合わせは慎重に行う必要がある。
実際、先日、日米協調介入による影響がでたばかりである。
投機筋の円売り越し7割強減、日米協調介入後に
2026年8月10日午前 7:38
米商品先物取引委員会(CFTC)が10日までに公表した建玉報告によると、投機筋のポジション動向を映すとされるIMM通貨先物非商業部門の取り組み状況で4日時点の円の売り越しは4万5473枚と、前の週の16万3412枚から7割以上減少した。3日午前には、片山さつき財務相が米財務省と協調して円買い介入を実施したことを発表していた。
ロイターより
加熱していた市場に冷水をぶちまけたことで、過度な動きを封じる効果があったと見るべきか、市場の動きを鈍らせたと見るべきか悩む部分ではあるが、あまりに動きがピーキーだと経済には悪影響が大きい。
そういった難しい舵取りを迫られている局面だとみる方が、公平なのではないだろうか。
まとめ
そんなわけで、外部要因を加味しながら日本経済を評価すべきという点と、対策もそうした視点を廃してはいけないと思っている。
日本経済をより強くする為には、今以上に外部環境が変化しても大きなダメージを受けにくい経済構造を作っておくことが重要になる。そういう意味で、副首都構想はその一助になる可能性はあるだろう。僕自身は必ずしも賛成とはいえないが、需要喚起という意味ではかなり大きな政策になり得る。
もちろん、これが正しい方向なのかどうかは別途検証する必要がある。
しかし、少なくとも「高市政権は経済政策で迷走している」と単純に片付けるのは、単純に過ぎるのだと思う。
ここのところ、消費税減税などの関係でも、政権批判をする向きが強いのだが……、メディアが一様に批判するのは歪に映る。もうちょっと冷静に政策を見て、冷静に批判すべきだろう。


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