北朝鮮版のイージスと書かれているのだけれど、そもそもイージス艦って何よ?ということが分かっているのかいないのか。
「北朝鮮版イージス艦」5千トン級進水、金正恩氏「次は原子力潜水艦」
Posted April. 28, 2025 08:45, Updated April. 28, 2025 08:45
北朝鮮が、金正恩総書記が出席した中、「北朝鮮版イージス駆逐艦」である5千トン級の新型多目的駆逐艦の進水式を行った。特筆すべき駆逐艦がなかった北朝鮮に、総合戦闘を遂行する大型駆逐艦が初めて登場したのだ。正恩氏がこの駆逐艦に核弾頭搭載ミサイル搭載も可能だと示唆し、韓米にとって新たな核の脅威になり得ると指摘されている。
東亜日報より
前回触れた記事ですっかり満足してしまったのだが、アレって完成したってことですかね。
ロシアとの連携を想起させる
大型艦の建造
先ずは前回の記事から。
コメントに、「北朝鮮のイージス艦が」というのを見かけて思い出したのだけれど、そういえばこの話って記事で触れていなかったなと。
記事を書いたのは4月21日なのだが、25日には進水式を迎えたらしい。
北朝鮮の労働新聞は26日、新型多目的駆逐艦の進水式が朝鮮人民革命軍創建記念日の25日に南浦造船所で行われたと報じた。北朝鮮は先月8日、造船所の艦船建造現場で正恩氏が新型駆逐艦2隻を建造中の様子を視察する写真を公開したが、このうちの1隻と推定される。この駆逐艦は「崔賢」と命名された。崔賢は、金日成主席のパルチザンの仲間で、崔竜海朝鮮労働党書記の父親だ。
東亜日報「「北朝鮮版イージス艦」5千トン級進水」より
進水式が早かったのか、僕が記事にするのが遅かったのか。ともあれ、前回建造途中であったモノが、あっという間に進水式を迎えたと言うことのようだね。

この写真、随分古いものだったのだろうか?調べて見ると、2024年12月29日に朝鮮中央通信にて報告されたモノのようだ。それとも、別の艦なのか。記事から分かることは、北朝鮮がこれまでとは異なり随分と大型の艦を作るようになってきたと言うことだろう。

衛星写真では4月6日に撮影されてこの状態だったらしいのだが……。

いつの間にか完成しとる!
いや、別の艦なのだろうか?それならそれで別に報道されそうなモノだが……。
イージス艦は
ところで、韓国の記事には「北朝鮮版イージス駆逐艦」とか書かれているが、実際のところ「イージス艦」とは、アメリカが開発したイージスシステムを搭載した艦艇のことを指す。
したがって、言葉通りであればアメリカはまんまと技術を奪われたということになるのだが、まさかロッキード・マーティン社が技術供与をしたわけではあるまい。

とすると、広義の意味で、多機能レーダーと情報処理システムと射撃指揮システムを搭載したネットワーク化されたミサイル防衛システムのことを指すということなのかもしれない。
韓国の新聞が如何なる意味でこの言葉を使ったかは不明だが、記事を読んだ限りは高度なレーダー機能や指揮・統制システムの存在は示唆されていない。また、迎撃システムの搭載も確認されず、VLSの搭載が確認できているようだが発射出来るかどうかは不明である。

ただし、JSF氏によれば、この駆逐艦はVLS発射試験を行っており、少なくともVLSからのミサイル発射機能は確認されている。
初の駆逐艦
これまで、北朝鮮は基本的に小型の艦船しか作ってこなかった。これは周辺海域が喫水が浅く、取り回しの面でも大型艦はメリットが薄かったから。そんなものより小型工作船の方が効果的だと割り切った効果的だと割り切っていたからだと思う。
だが、今回は駆逐艦を建造した上に、VLSの搭載を確認できている。レーダーの性能は不明だが、少なくとも試射が出来るレベルにはシステムが出来上がっているようだ。
北朝鮮、新型駆逐艦の兵器システム発射試験を実施=KCNA
2025年4月30日午後 1:05
北朝鮮は今週、先に公開した新型駆逐艦に搭載される兵器システムの発射試験を初めて実施した。国営の朝鮮中央通信(KCNA)が30日に報じた。
金正恩朝鮮労働党総書記と高官らが立ち会い、巡航ミサイルや対空ミサイルが発射されたほか、砲弾の試射も行われた。
ロイターより

記事に寄れば、以下のシステムの作動を確認したとのこと。
- VLSからの超音速巡航ミサイルの発射(ロシア製3M54Eに類似?)
- VLSから戦略巡航ミサイルの発射(過去に試射済み)
- VLSから艦対空ミサイルの発射(流星-1-2だと推定)
- 127mm上自動砲の試射
- ロシア製AK-230派生の艦上自動機関砲の試射
結構色々なシステムを搭載しているっぽいね。
米シンクタンク「38ノース」は衛星画像を元に「タグボートを使って船を所定の位置まで移動させたり戻したりしていたということは、推進システムが機能していないことを示す可能性がある」と述べた。
ロイター「北朝鮮、新型駆逐艦の兵器システム発射試験を実施」より
一方で、動力に関しては動作するかを確認できていないようだ。進水式をやって動力が動かないというのは不思議な気はするが……。
ロシアの技術満載
というわけで、これまで駆逐艦を作ってこなかった北朝鮮だが、いきなり多数の兵器を搭載した駆逐艦を進水させ、さっさと試射を行っている。
ここから割り出されることは、駆逐艦建造に関するロシアからの技術供与があったということと、兵器の供与があったということを内外に示す目的があったのだと予想される。
ちょっと前にこんな記事を紹介した。
恐らくはこれと同じ意味合いの話であるように思われる。北朝鮮はロシアと一蓮托生の道を選び、今後は全面的な協力を受けると。
North Korea in 2025: Make Money Not War
January 14, 2025
North Korea welcomed 2025 in a much stronger position than it was at the start of 2024, thanks to a revived alliance with Russia, an amicable relationship with China, and weakened international sanctions. The Korean Central News Agency described 2025 as a “year of great turn for raising the overall development of socialism onto a higher stage.” North Korean Chairman Kim Jong Un stressed the importance of bolstering the country’s defense industry and improving the economic efficiency in rural areas under the “Regional Development 20×10 Policy.”
~~対訳~~
2025年の北朝鮮:戦争ではなく金儲け
北朝鮮は、ロシアとの同盟関係の復活、中国との友好関係の維持、そして国際社会による制裁の緩和により、2024年初頭よりもはるかに強固な立場で2025年を迎えた。朝鮮中央通信は2025年を「社会主義の発展全体をより高い段階に引き上げる大きな転換の年」と表現した。北朝鮮の金正恩委員長は、 「地域発展20×10政策」の下、国の防衛産業の強化と農村地域の経済効率向上の重要性を強調した。
The Diplomatより
こちらの記事で幾つか指摘があるが、随分とウクライナ戦線に北朝鮮兵を送り、その見返りに金を得て、兵器を作る為に軍需工場をフル稼働させてその見返りに小麦を受け取っているという指摘がある。
ここ数年、北朝鮮の農村部では深刻な物資不足が指摘され、食糧不足が懸念されているが、一連の話から金正恩氏の指導力の低下が推測される。
娘のジュエ氏と共に進水式に出席した正恩氏は、演説を通じて、「この駆逐艦の出現で、わが海軍武力を現代化する突破口が開かれた」とし「対空、対艦、対潜、対弾道ミサイル能力はもとより、攻撃手段、すなわち超音速戦略巡航ミサイル、戦術弾道ミサイルをはじめ、陸上打撃作戦能力を最大限強化できる武装体系が搭載されている」と主張した。この主張が事実なら、韓米の弾道ミサイル攻撃など各種攻撃を阻止する性能を備えているうえ、これまで戦略巡航ミサイルや戦術弾道ミサイルなどに核弾頭搭載が可能だと主張してきたことから、核攻撃も可能という意味になる。
~~略~~
正恩氏は、「来年もこのクラスの戦闘艦を建造する」と重ねて強調した。これを通じて「遠洋作戦能力」を保有するなど、最強の海軍武力を持つということだ。韓国軍当局は、北朝鮮がロシアの技術移転を受け、大型駆逐艦と潜水艦の建造に拍車をかける可能性に注目している。
東亜日報「「北朝鮮版イージス艦」5千トン級進水」より
大国ロシア(笑)との関係強化と連携によって、北朝鮮がより存在感を増したということのアピールのように思われる。
もちろん韓国と非対称な戦力を手にしたという意味でも「先軍政治」や「苦難の行軍」という指導方針の正当性とその成果を早急に示したかったという意図が見える。ある意味、金正恩氏の焦りを感じ取ることは出来るのだが。
現時点での戦力差は未だ大きい
とはいえ、韓国海軍はそれなりの戦力を有していて、駆逐艦1隻と大型潜水艦1隻を手に入れたところで、すぐに海上における戦力差は埋まらないだろう。
一方で、北朝鮮がそれなりの数の大型駆逐艦と潜水艦を手に入れた場合、おそらくはロシア海軍の補完勢力的な位置づけになるにせよ、韓国政府としても放置できない事態に成り得る。
実は、韓国型イージス艦と呼ばれる世宗大王艦級駆逐艦は武装過多である一方で、イージス艦の強みであるリンク16を利用したネットワーク機能は脆弱ではないか?と、指摘されている。
運用の面でこれまではそういった需要がなかったため問題視されていなかったが、今後、北朝鮮が複数の駆逐艦を手に入れ、データリンクを搭載するようになると、かなり困ったことになるだろう。
こうした状況から、世宗大王級は日米のイージス艦のように、その能力を対空メインに振ることができず、結果として重武装になったとも言えるでしょう。
ただ、やはりアメリカ製と国産、両方のVLSをこれだけの数搭載するのは非効率だと判明したのか、改良型の「正祖大王」では、その数は88セルにまで減る模様です。
ある意味で、初めてのイージス艦だからと武装をテンコ盛りにしてみたと形容できる世宗大王級駆逐艦。それは、韓国海軍が置かれている状況を映した「鏡」だったといえるのかもしれません。
乗り物ニュースより
このブログでも別の記事で言及しているが、韓国海軍の伝統はトップヘビーで海上固定砲台をやるというコンセプトが世宗大王級の1番艦でその同型艦を2隻増やし、改良型の正祖大王級ではミサイル迎撃機能が盛り込まれたのと同時に兵装のスリム化を図った。
つまり、世宗大王級の1番艦から3番艦までのコンセプトは足を止めて打ち合うことで、それ以降の正祖大王級で艦対空迎撃能力を強化するに至った。これらの設計は全て韓国海軍で戦力を賄う想定で、多用途に使えるように用意されてきた。
ところが、北朝鮮軍がコンセプトを変えてきたものだから、果たして今までの更新で良いのかどうか。これまでは非対称で一方的に勝てる戦力だとしていたからね。
ロシア海軍との一体化が進むと、韓国としてはかなり苦戦しそうである。
コメント
さっそくの記事ありがとうございます。
ひとまずイージス艦にイメージする対空防御力を持たないという点では安心。
しかし、基本的に外洋での作戦をする大型艦艇を奴らは持たないという意識で来ましたので、核搭載可能な巡航ミサイルや弾道ミサイルを持ってるというのは、やはり日本にとっても不安材料ですね。
七面鳥様から「リンクする艦艇が無い旨」を伺い安堵してはおりますが、木霊様の御指摘の通り「増殖しやがる」と面倒くさい事になる。
私は記事を読んで思ったのは!
「やっぱり敵基地や港湾や空港を爆撃可能な巡航ミサイルを自衛隊に整備し、先制攻撃も可能な法案を」であります!
ロシアとツーカーといえ、奴らのエネルギー事情からして、単艦の間は、メンテや補給で停泊しておる時間の方が長いでせうから、外洋に出る前に、港湾に巡航ミサイルを撃ち込めば撃沈もしくは運用不能にできる。連中の兵器生産力がロシア支援でどれぐらい上がるか?は解らないのですが、
悪い方に転がると似たような重武装大型艦艇を増殖されかねない!
それは困る。そういう嫌な予想で動いていかないと、受け身では国が護れない時代に突入しとると感じました。
イージス艦がゴツゴツしてなくてノッペリしたデザインなのは、ある意味でステルス効果の為ですよね?
ステルスって、前に書いたように、
「自分に当たるレーダ波からの反射波を減らす」というアプローチですよね?
んじゃ、フェアデルフィア実験みたく「レーダー波そのものを無効化する」とか、
ミノフスキー粒子みたいの開発すると、昔の軍艦みたくゴテゴテしたデザインに戻るのでしょうか?
北朝鮮がロシアの技術支援を受けていることから、S-400ベースの対空防衛に関するレーダー技術って、多分もっていると思うんですよ。
それが使えるかどうかはまた別なんですが、持っている前提で考えるべきかと。
他の方もコメントされていますが、これから増やすので、今は安全だけど今後は分からないというのが、現状だと思っています。
一番危惧しているのは、ロシアに兵器を輸出する展開ですね。今はそのレベルにありませんが、数年後であれば確実にそのレベルになるのかと。
サイズはフリゲート艦でミサイル搭載量が多すぎてトップヘビーな民族の伝統
というのは冗談でも二番艦も建造中という情報も有ります
そうですね、トップヘビーの伝統はここにも明確に存在する気が。
二番艦も作っているでしょうけれど、材料が不足しているみたいで。
こんにちは。
マスコミは、フェイズドアレイレーダ(的なもの)が四面についてりゃイージス艦ですからね。
彼らは、出典に当たるとか、本来の意味を調べるとか、そういう事はしませんから(断言)。
で、北のイージス(としておきます、楽なので)が曳航されて云々は、
「エンジンは積んでるけど燃料が無い」
のでは?
ガスタービンだとしたら、軽油をエラい勢いで消費しますから。
※このクラスの船が、今更ディーゼルでもボイラーでもないでしょうし、煙突はガスタービンを彷彿とさせる形状ですし。
2番艦以降を建造したとしても、まともに訓練する燃料も、そもそもまともな水兵もいるのでしょうかね?
ガワは作れても、燃料は買ってこないとだし、ヒトは飯食わせて長時間訓練しないとなので。
※航海に出れなければ訓練のしようが無い。
こんにちは。
見かけだけでは性能が分かりませんから何とも。
そして、「燃料がない」展開は予想外でした。
確かにその可能性は否定できません。でも、ロシアは産油国なので、その辺りは提供されるのでは?とも。