近況は「お知らせ」に紹介するようにしました。「注意して下さい」もお読み下さい。

ポーランド憲法裁に治安部隊が出動する異常事態に

スポンサーリンク
北欧ニュース
この記事は約7分で読めます。

EUは本当にあっちもこっちもおかしなことになっている。

ポーランド憲法裁に治安部隊が出動、政府と裁判所トップの対立激化

2026年10月31日

ポーランドの警察は30日、憲法裁判所に治安部隊を配備した。同国では、ドナルド・トゥスク首相率いる親欧派政権と、右派「法と正義」(PiS)の前政権が任命した憲法裁トップの対立が激化している。

BBCより

これまでポーランドの話をこのブログで取り上げたことはなかったが、ポーランドの政治は少し前からかなりおかしなことになっている。

そして今や、首相派と大統領派が憲法裁判所の人事を巡って対立し、裁判所内部にまで混乱が広がるという異常事態に発展している。

司法の独立性の毀損

スポンサーリンク

自国第一主義はポーランドにも

「裁判所内で争う」というと、法廷で争っているように聞こえるのだが、今回の場合はそういう話ではない。

憲法裁判所に治安部隊が配備されるという事態になっていて、法廷闘争どころではないのだ。

トゥスク政権はこの日、憲法裁のボグダン・シフィエンチコフスキ長官の職務停止を発表した。さらにワルデマル・ジュレク法相は、シフィエンチコフスキ長官とバルトウォミェイ・ソハンスキ副長官に対する刑事訴追を行うため、2人の訴追免除特権を剥奪するよう要請した。

BBC「ポーランド憲法裁に治安部隊が出動~」より

ポーランド大統領のカロル・ナヴロツキ氏は、2025年8月に第7代大統領に選ばれており、保守派の大統領である。

一方、ポーランド首相のドナルド・トゥスク氏は2023年末に就任した親EU派でリベラルな立場の人物だ。

ポーランドにも「自国第一」大統領…EU懐疑派で政権と対立不可避、EUはトランプ政権との連携警戒

2025/08/07 08:14

ポーランドで6日、6月の大統領選挙で勝利した欧州連合(EU)懐疑派の歴史家、カロル・ナブロツキ氏(42)が大統領に就任した。任期は5年。親EUでリベラルなトゥスク政権と政治的立場が異なり、対立は不可避とみられる。内政や外交への影響が懸念される。

アンジェイ・ドゥダ氏の後継となるナブロツキ氏は同日、国会で就任宣誓を行った。演説で「EUとのつながりは支持するがポーランドの主権を奪うことは許さない」と述べ、EUの単一通貨ユーロの自国導入などに反対する考えを示した。

讀賣新聞より

現状でポーランドはEUに加盟しつつも、自国通貨のズウォティ(PLN)の発行を続けている。

EUとの関係を重視するトゥスク首相と、EUによる統合の深化に慎重なナヴロツキ大統領。両者の政治的立場には大きな隔たりがある。

ただし、今回の対立は単純なEU賛成派と反対派の争いというわけではない。問題の中心にあるのは、司法制度の改革と憲法裁判所の人事なのである。

対立のポイントは

今回の憲法裁判所での争いは、前政権の残した法改正などの影響が大きいとされている。

ポーランドの憲法裁は、法律の合法性を判断する権限を持つ。2015年に発足したPiS主導の政権は、憲法裁で多数派を確保するため、迅速に判事を任命した。

その後、欧州人権裁判所(ECHR)と欧州司法裁判所(ECJ)は、PiSが多数派を占める議会が任命した判事3人は、前の議会が既に正当に任命した役職と重複しているため、選出は不適切だと判決を下した。

欧州の裁判所はさらに、ポーランド憲法裁はもはや「独立した公平な裁判所」ではないとの判決を下した。2024年に成立したトゥスク政権は、この判決を根拠に、同裁の判決の公表を停止した。

BBC「ポーランド憲法裁に治安部隊が出動~」より

話がややこしいのだが、憲法裁判所の人事を巡って争っているという認識で良いと思う。

前政権は「法と正義(PiS)」主導の政権で、3人の憲法裁判所判事を任命している。この任命タイミングが問題で、2015年10月に任期満了を迎える憲法裁判所の判事は5名だった。うち3名は選挙前に任期切れ、残り2名は選挙直後に任期が切れる予定だった。

「市民プラットフォーム(PO)」主導だった旧政権は、選挙後に自分たちが下野する可能性が高いと判断し、任期が切れていない判事を含めた5名全員を、選挙前の議会で前倒しで一斉に任命。

選挙後に、勝利して政権を得たPiSは、不当な人事であるとして、当時の大統領であったアンジェイ・ドゥダ氏の協力を得て「就任宣言」への立ち会いを拒否。そして、PiSが任命した5名の判事の就任宣言に立ち会うことで、PiSに意見の近い判事が就任する結果となった。

そして、POの党首である首相が誕生したのが2023年12月。

このトゥスク氏、憲法裁判所の判断が不適法な人事によって歪められているのだからという理由で、2024年に憲法裁判所の判決の公表を停止しちゃった。

こうして見ると、POにもPiSにも、それぞれ問題があったことが分かる。

話を整理すると、POは選挙前に人事を先取りし、PiSは政権交代後にその人事を全面的に覆した。しかも、憲法裁判所が適法と判断した3人についても、改めて選び直すことはせず、別の判事を任命した。

どちらの対応も、司法の独立性という観点から見れば、政治的な思惑が入り込んでいると疑われても仕方がない。したがって、POとPiSのどちらか一方を支持すれば済む話ではないのである。

ただし、それと現在のトゥスク政権の対応は別問題だ。

過去の政権による司法への介入を是正するという目的が正しかったとしても、そのために取る手段まで正当化されるわけではない。

僅差で敗北

POは、2024年に憲法裁判所の判決の公表を停止し、今回は治安部隊を裁判所に送り込んだ。何れもポーランドの国内法に抵触する上に、ポーランド国民からも懸念が示されることになる。

その民意は2025年の大統領選挙にも見ることが出来る。

ポーランド大統領選の決選投票、野党候補が僅差で勝利

2025年06月03日

6月1日に実施されたポーランド大統領選挙の決選投票(2025年5月22日記事参照)で、保守野党「法と正義(PiS)」が擁立する無所属のカロル・ナブロツキ候補が、リベラル派の中道与党「市民プラットフォーム(PO)」候補でワルシャワ市長のラファウ・トシャスコフスキ氏を僅差で破り、当選した。国家選挙管理委員会(PKW)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、得票率はナブロツキ氏50.89%、トシャスコフスキ氏49.11%で、約37万票差と極めて接戦の結果となった。

JETROより

事前調査では、与党のPOが15ポイント差で圧倒的に有利だと言われていただけに、この僅差での野党側の大統領登場には、かなりの衝撃が走った。

決選投票を控えた5月25日には、ワルシャワ市中心部で各候補者を支援する行進や集会が行われるなど、国民の高い関心を集めていた。今回の投票率は71.63%で、ポーランドの大統領選史上、過去最高となった。

JETRO「ポーランド大統領選の決選投票~」より

投票率7割越えで選ばれたのだから、僅差であっても民意が示されたと考えねばならないだろう。

与党は、トゥスク氏の主導により、中核の「市民プラットフォーム(PO)」と、それまで連合を組んでいた「現代(Nowoczesna)」、「ポーランド倡導(iPL)」の3つの政治勢力が2025年10月に正式に合併・解党し、単一の新政党「市民連立(KO)」が結成される。

が、ここで厄介なのがKOの議席数だ。KOの単独議席数は156議席で、下院過半数の231議席に及ばない。つまり、多数派で大統領に対抗するという手段もとれないのである。

一方、トゥスク首相はソーシャルメディアへの投稿で、「法の支配を回復することは我々の義務だ。長年にわたる『法と正義(PiS)』党による無法状態を経て、これは難しく、時には苦痛を伴うプロセスで、断固たる行動を必要とする。ほかに道はない」と述べた。

BBC「ポーランド憲法裁に治安部隊が出動~」より

そのために、「他に道はない」といって憲法裁判所の長官の職務停止を発表し、副長官と共に訴追免除特権を剥奪する要請を出したという。

その上で、治安部隊による物理的封鎖までやってのけるのだから、ポーランドの民主主義は一体何処へ行ってしまったのか。

日本の近くにも民主主義がおかしなことになってしまった国があったけれど、ポーランドもまさにそんな形になりつつある。

まとめ

ポーランドの保守派PiSが正しいか、或いは与党のPOが正しいか、それは民主主義を支える正当な手続きによって判断されるべき問題なのだが、与党を握っているPOはそれを毀損してしまった。

そもそも、過去の政権にも問題があった。だからといって、現在の政権が自分たちの正義を掲げて、手続きを無視してよいわけではない。

思い通りにならない政治というのは、歯痒いモノがあるのかもしれない。だが、手続きを無視した強権行使は、民主主義においてやってはならない禁じ手である。

正当な手続きを踏んで独裁的な権力を手に入れたドイツの某党のような存在もあるだけに、正当な手続きを踏んでいるから正しいとも言えないのだが、それでも正当な手続きを踏むべき理由はあるのだ。

コメント